“君が好きです”  『好きで10のお題』より
      〜アドニスたちの庭にて より
 


 陽の目映さのせいなのか、それともそのものの色合いの明るさのせいなのか。公園や街路の生け垣や茂みに芽生える、若葉の幼い緑の発色のよさへ、ついつい目がいく そんな頃合い。

 「♪♪♪」

 お友達との待ち合わせ、週末の街路に立ってたところが、ふと…視線の先に見慣れた制服を見つけてしまい。あれれぇ?と気を引かれたそのまま、見るともなく眺めておれば。誰かを待ってるような素振りのそちらさんの方が先に、待ち合わせのお相手の到着を迎えられたらしくって。それまではちょっぴり不安げに周囲を見回していたものが、ぱぁっと表情が明るくなったその落差が何とも印象的だったから。

  ―― ああ、そっかと

 思い当たったものへの甘い感触へ、柔らかな笑みをこちらまでもが噛みしめていたところが、

 「? どした、セナ?」
 「え? あ・えと、ううん。何でもない。////////」

 何度か呼んだのに“ぼ〜っ”て腑抜けてやがってよ。何だよ腑抜けてってのは酷いなぁ。だってよ、ごめんてば…などなどと、気さくなやり取りを交わすのは。白騎士学園の、ただ今“大学部”に通っておいでな、小早川瀬那くんとそのお友達の雷門太郎くんの二人連れ。もう一人の仲良しさん、甲斐谷陸くんとの3人で、受講している講義に要りような専門書を探しにと、書店巡りをしに Q街まで出て来たところなのだが、

 「高等部の青葉祭、もう終わったんだねぇ。」
 「何だよ、今時分に。」

 彼らが通っていた白騎士学園高等部にて、連休を使って催される球技大会。外部からの途中入学してくる顔触れが一番多い学部でもあるからと、そんな新入生らへの歓迎の意を込めて催されるよになったという、ほぼ1週間かけてのお祭り行事で。バレーボールやバスケにサッカー。ソフトボールにフットサルにテニス、何故だかドッジボールまでと、各種ある球技のそれぞれへ。クラス対抗だけじゃなく、部活動での参加ものトーナメントもあって。こんな楽しい顔触れの部だよという宣伝も兼ねてる、正しくお祭り騒ぎだったりし。学校や部活に馴染む切っ掛けになりもするし、

  それからそれから、もう一つ。

 高等部のみに存在する、こそりとした、でも公然の“しきたり”のようなもの。学内でだけの“兄と弟”の絆を誓い合う、そんな間柄へと馴染む弾みにもなっており。勉強であれ行事であれ、不慣れなあれこれをフォローしてくれて。優しかったりぶっきらぼうだったり、その人その人で個性の差が出るのはやむを得ないけど。友達よりも微妙に深く、親身になって支えてくれる、頼もしい人じゃないと続かないから。

 “今の子、校章も取っ替えてたな。”

 卒業したての自分だから、今年度の一年生はそんなセナたちと同じ色の校章を、その詰襟に留めてるはずだとすぐにも判って。なのに、今さっきの二人はというと、待たせた側の上級生がそっちの色のをつけてたから、あのね。ああそうかって判っちゃって、ついついそのまま眸で追ってしまったセナであり。きっと彼らも、青葉祭で仲良くなったのかな。だって、妙にばたばたして落ち着かない中だし、クラスの事とか身近な友達とのほうを優先しがちな時期でもあるから。実を言うと この、連休まるまるかけるお祭りは、兄弟の絆の誓約を結びかけてる身の子には。相手の本性…というと大仰だけれど、そういうのをいっぱい見聞き出来る時期でもある。自分にばかり構ってくれるわけじゃないけど、それでもいい人だなぁって思うのならば、と。そんな判断をしてののちの、校章の交換へと至ったならば、まずは間違いのない間柄になれる。

 “…ボクの場合は ちょこっと違ったけれど。”

 そういや、何だかごちゃごちゃがあってのことでしたもんねぇ。あれから もう結構な歳月が過ぎたんだなと、何とはなくのしみじみと思っておれば、

 「青葉祭っつったら、生徒会は大変らしいじゃねぇか。」
 「え?////////」

 生徒会だなんて、セナのお兄様がいた所属を言われたもんだから、あやや、思ってたことがお顔に出たかなと。内心でちょっぴり焦りかかったものの、

 「ほれ、陸が去年にサ。
  生徒会は参加した球技に優勝するのがセオリーだから…とか何とか、
  桜庭さんから言われてて。」
 「あ、そういえば…。」

 ただでさえ、お祭り騒ぎ全体の指揮監督を執らなきゃならないのに。実務は専門の部署として立ち上がる“執行部”があたるとはいえ、それでも…揉めたり騒ぎがあったりすれば、主催で最高責任者でもある“生徒会”に、きっちり収拾させろという運びにだってなりかねない。そのための目配りとして、執行部からの報告を常に把握してたりするその上に。まさかに威厳保持…なんてこともないんだろうけど。どこか優れた顔触れが選ばれるグループでもあるせいか、歴代のどのお人たちも、生徒会として参加した競技には、ことごとく優勝しているのがもはや伝統みたいなことになっていたので。

 「しかも、すぐ前の顔触れが、
  桜庭さんに進さん高見さんが中心の強豪じゃあなぁ。」

 勉強でもスポーツでも、社交的なこととか、そうそう生徒会の運営に関しても。何をさせてもずば抜けていた、任期の長さでも実績でも歴史に残ろうスーパー生徒会。そんなのの後じゃあ、気も張ろうし肩も凝ろうよと。バレーボールのトーナメント、小兵ながらも彼こそが皆を引っ張り、何とか優勝していたの、しみじみと思い出していたらしい。

 「何とかってのはなんだ。」
 「あ、いや。今のは俺が言ったんじゃあないし。」

 一番遅刻して来たくせに、相変わらずに偉そうな、ちょこりと小柄な前生徒会会長殿が、切れ長な目元を眇め、きっちりと聞きつけての噛みついて来たのへと。うわわ、タンマだタンマと、どこか大仰に逃げ腰になったモン太だったりし。そんな二人へ“あはは…”と苦笑を送ったセナだったものの。


  “……大変、だったかな?”


 そうだっけ? あれれ?なんて。楽しかったことしか思い出せないらしい、そんな自分に、今 気づいていたりもするようで。





   ◇◇◇



 「………。」
 「あ。そんな、何か言いたそうなお顔しなくても。」

 だって本当に。緑陰館で構っていただいたことも、他の行事であっちこっち駆け回ってたことも、ボクには楽しいばかりだったんですものと。大学部での彼らの足場、高見さんが教授先生にお借りしたという準備室にて顔を合わせた、お兄様こと 進さんへ、そんな疑わしいってお顔なんかしないでくださいようと言いつのったセナくんだったものの、

 「…結構な目にも遭ってるのにねぇと、
  あの進でも思っちゃったってこともまた、僕には意外なんですが。」

 当事者たちには聞こえないようにか、身を寄せまでしてこそりと囁いて来た、亜麻色の髪の美丈夫へ、

 「思ったとしても言ってはいけないことって、たんとありますよ? 桜庭くん。」

 一応は苦笑混じりに窘めた、相変わらずに理知的なお兄様の高見さんではあったれど。でもまあ、そんな発言が出たのも判らんではないというか、この際はどのお人の心情も判ると言いますか。一際 寡黙で、しかもしかもどこか世情に疎い朴念仁であるがゆえ。きりりと冴えて鋭角的な、いかにも武人でございますという趣きの強いそのお顔へ、あんまり表情らしき変化を見せぬ進だのに。こちらの小さな後輩くんは、一体どういう相性なのだか、ちゃんと微妙な感情の変化を読み取れてしまうらしくて。そして、だからこそ。そのセナくんが語った“楽しいばかりだった”という高等部時代のお話に、すぉうかなぁ〜?という感慨をついつい抱いてしまったらしき進だっていうのは。そうと読み取ったセナくんは憤慨しているけれど、ほぼ毎日を彼らと同座して過ごしてた こちら様がたにしてみれば、そこはやっぱり“すぉうかなぁ〜?”の側へ、十分同意出来るというもので。だって、セナくんが進級して来てからでもほんの2年の間に、本当に色々あったから。年中行事へ連なるドタバタにも随分と賑やかなのが幾つかあったし。それとは別に、それぞれ各々の関係者に起きた騒動やら事件やらも、大小の差こそあれ、記憶にはまだ鮮明な内の代物ばかりだったりするし。

 「セナくんだけに限っても、
  隣町の高校の恐持てなお兄さんと仲よくなったり、
  とんでもなく目立つ帰国子女の坊やに懐かれてた時期もあったし。」

 それと、ほらあれ、忘れちゃいけないのが、妙なチンピラに人質として攫われもしたっていうのにね、と。指折り数えた桜庭さんだったけれど、

 「…でも、そのうちの怖かったろう思い出って、
  ほとんどセナくんが招いたもんじゃあないでしょう。」
 「そうだっけ?」

 そうですよ。あんたたちが手ごわかったがゆえにって招いてしまった、言わば余波みたいなもんだったようにも思うのですが。

 「十文字くんでしたか。彼と知り合いになれたことだって。
  セナくん自身の性格もありましょうが、
  そもそもの切っ掛けは、蛭魔くんが配置していたからって前提あってのことですし。」
 「なぁんの話かなぁ。」

 そういえば。あんたたちみたいな恐ろしい生徒会にお近づきになったから、それでとこうむった事態ばっかだったのでは。今頃になってそこを忘れたように言い回すなんて、桜庭さんも相変わらずちゃっかりしておりますことよ。そして、

 「で、そんな思いがけないすったもんだに巻き込まれても。
  どれも全部楽しかったって言い切るセナくんだって ことなんでしょうね。」

 大変な目にも遭ったのにね。勿論のこと、忘れた彼じゃあなかろうし、その時その時に於いて、ドキドキもしたろうし、怖くもあったに違いない。でもね? あのね? その一つ一つに、いつも傍らにいてくれた人があったから。もうもう進さんたらと、むずがるようなお言いようする弟くんを。微かにひょこりと小首を傾げ、微妙に困ったようなお顔になって、どうどうどうと見つめてくれる大好きな人が、これまでだって色んな格好で支えててくれたから。大変だったこともあったけれど、いい思い出にしかならないでいるセナくんなんでしょうねぇと。こちらさんも微笑ましげなお顔になってる高見さんであるらしく。

  “破れ鍋に綴じ蓋なんて言ったら、失礼に当たりますかね。”

 どこか及び腰で怖がりに見えてたセナくんが、案外と度量は大きいのかもと思わせることが、そういや結構ありましたし。逆をいや、セナくんへだけは…日頃の大雑把な朴念仁ぶりはどこへやらで、そりゃあ気を遣ってやっての優しくあたってた進さんだったりもしたような。本人たちに互いへの告白の機会があったかどうかは知らないけれど、傍から見ていても判るのは、


  ―― お互いへの特別な態度が、
      そのまんま“君が好き”と紡いでるってことで。


 高見さん聞いて下さいよう、進さんたらボクが随分と訝
(おか)しいみたいなお顔をするんですよ? おや、それはいけないねぇ。とんだタイミングで飛んで来た側杖も何のその、おっとりと優しい笑顔で訊いて差し上げる高見さんこそ最強な、こちら様がたも相変わらずのメンバーでおいでの模様。窓辺のポプラの新しい若葉たちも、風に揺らされ くすすと微笑う、そんな初夏の昼下がりでございます。




  〜どさくさ・どっとはらい〜 09.05.20.


  *いい日和が続きますね。
   だってのに、どっかへ行こうと思うより、
   いいお昼寝日和だと思ってしまうおばさんです。
(苦笑)

めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv *

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